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【透視中国】耐え難い重荷 社会保障編――ナレーション版

2010年12月18日

【新唐人日本2010年12月19日付ニュース】2007年12月23日、中国では、注目を浴びた「社会保険法」の原案が人民代表大会に提出されました。この法案は、1994年から検討され始めたものの、複雑な利害がからみあい、結局可決されませんでした。

最新の「社会保険法」の原案は、労働・社会保障省の掛け声で作られ、国務院を経てから、全人代の審議にかけられました。
 
【司会者】2004年9月、中国国務院は、「中国の社会保障の状況と政策の白書」を発表。初めて、社会保障の政策と状況を公開し社会保障システムについて、こう定義しました。
 
社会保障システムは、社会保険・社会福祉・生活保護・社会援助・住宅保障などを含む。このうち、社会保険が社会保障制度の主体で、5つの保険――年金・失業保険・医療保険・労災・養育保険を含む。
 
【司会者】世界各国の社会保障に対する定義は異なりますが、社会保障の実践から見ると、政府は社会保障制度の最も重要な主体であり、きわめて大切です。政府が職責を果たすかどうかが、社会保障制度の運営と整備に決定的な影響を与えるのです。続いて、中国人民大学の董克用(とうかつよう)教授の「社会保障」の定義を見てみましょう。
 
「社会保障」は政府が主体となり、法律にもとづき、国民の収入を再分配することで、労働能力を喪失したり、生活に困ったりした公民に、援助を与える。「社会保障」には社会救済(きゅうさい)、社会保険、社会福祉の3つがあり、そのうち社会保険は「社会保障」の主体である。
 
【司会者】社会保障制度は庶民の生老病死や多くの家庭の経済的な権益にかかわります。本日の「透視中国」では、有名な経済学者の何清漣さんをお迎えして、養老保険、失業保険と医療保険の3つの面から、中国の社会保障制度を分析してもらいます。
 
【何清漣】社会保障システムとは、「三大保険」です。つまり、「養老保険」「失業保険」「医療保険」。
 
欧米の基準に照らせば、国は国民の社会福祉を担うべきなのです。国民は納税者ですから。養老保険、つまり年金は老後の面倒を見る。医療保険は、病気の人を診る。失業保険は、仕事がないときに最低限の生活を送れるよう支える。
 
【司会者】では、中国の社会保障制度の発展状況はどうなのでしょうか。
 
 
【何清漣】中国は計画経済だった時代、職場の福祉制度がありました。従業員の福祉、退職、医療、住宅、子供の教育、これらはみな職場と関係していました。
 
もしも大きな国営工場ならば、企業自体が大規模な「工業タウン」です。その中には、幼稚園から高校、さらには大学、病院まですべてあります。これが「職場による福祉」です。
 
中国では企業改革が始まると、企業にとって福祉が重荷になってきました。だから、重荷を除こうとしたのです。90年代中期と後期、朱鎔基(シュ ヨウキ)首相の主導で福祉制度の改革が始まりました。しかし、福祉をなくすからには、別のもので補わなくてはならないのに、中国では、新しい制度が働きはしなかったので、問題が起こったんです。
 
年金を例にすれば、もともと企業が年金を払ってきましたが、今は払わなくなりました。そこで、養老保険が必要なのです。
 
中国の制度では、養老保険の財源は3つです。政府の補助金。勤務年数や給料に基づいて企業が払う分、そして個人の負担で、大体、年金の10%前後です。これが「三方痛み分け」です。
 
例えば深セン(しんせん)。経済が比較的好調なので、社会保険の制度がきちんと築かれました。上海もまあまあです。広州(こうしゅう)でもできました。こうして、枠組みはできたのですが、具体的な運営となると、多くの問題が出てきます。
 
1つ目は、年金のカバー範囲が狭すぎること。調査によると、25%の人しか養老保険に入っておらず、75%の人が、もれています。
 
中国政府の発表によると、1996年、退職者の95%と、現役の79%以上が年金に入っていました。でも、現状は違います。
 
中国社会保障基金協会の項懐成(こう かいせい)理事長、つまり中国の元財政大臣は、数年前、こう言ったんです。
 
「中国は今、1億5千万人しか年金に入っていない、つまり総人口の12%。年金普及率の高い都市部でさえ、30%に過ぎません。農村になると、6%あまりしか年金に入っていない」と。
 
2つ目の問題は、年金の額が低すぎる点。例えば、農村部だと1年でわずかに477元。都市部であっても年金支給額は低めです。
 
3つ目の問題は、社会保険基金を利用した不正が深刻な点です。実は、特殊な現象が現れました。「年金口座がカラになっている」のです。
 
カラ口座という言葉は、英語ではふさわしい訳が見つかりません。翻訳のしようがないので、説明が必要です。
 
つまり、保険金を支払っているのに、口座にお金がないのです。そうなると、退職しても年金をもらえなくなるのです。政府からは補助金もなく、企業も払いたがりません。個人が払った分はわずかです。それでカラ口座現象が現れたのですが、中国政府はその数字を公表していません。私は長年探した結果、いくつか資料を見つけ出しました。
 
年金に対する累積負債額は、1997年で140億元。2003年には、6000億元になっていました。しかし2004年、元財政大臣の言い分では、4000億元増えて、1兆元になりました。1兆元も不足したのです。この額は半端ではありません。中国の年間GDPの1割ほどになります。政府がこの穴を埋めるのは大変です。
 
【司会者】2006年2月、全国老齢工作委員会弁公室が公表した、高齢化に関する研究報告書によると、中国の高齢者人口は、世界の高齢者の2割で、世界で最も高齢者の多い国です。中国はすでに高齢化社会に突入しましたが、では、高齢化の概念とは?
 
世界保健機関(WHO)の定義によると、65歳以上の人口が、全人口の7%から14%になると、高齢化社会と呼びます。ただし通常、60歳以上の高齢者が総人口の10%を超えるか、65歳以上の高齢者が7%を超えても、高齢化社会と呼びます。
 
【司会者】中国は人口政策で失敗をしたため、1950年代と60年代に、ベビーブームを迎えました。
8:29~8:46
70年代の初め、中国政府は「一人っ子政策」に着手。人口の激増は抑えられたものの、同時に、中国の人口の年齢構成が大きく変わりました。2000年に突入すると、中国の高齢者の割合が高まりました。
 
では、「上海東方衛星テレビ」の報道をご覧ください。上海の高齢化の状況を取り上げています。
 
ある統計資料によると、上海の平均寿命は81.08歳に達しました。男性は78.87歳で女性は83.29歳です。これは世界の先進国の平均寿命をどちらも超えています。
 
上海の60歳以上の高齢者人口は、286万8300人で総人口の2割あまり。そのうち、80歳以上の高齢者が2割を占め、50万2400人です。
 
【司会者】上海の状況からお分かりのように、中国では今、高齢化が大変進んでします。では、どうすれば高齢者の老後の補償問題をうまく解決できるのでしょうか。これは政府の正念場であり、まず解決するべき問題です。
 
昔から中華民族にはお年寄りを敬い、世話をする美徳がありました。家族で老人の世話をするのは当たり前のことでしたが、今、この伝統が試練にあっています。これからご紹介するVTRには、中国の代表的な問題が映し出されています。
 
青ちゃんは、北京市で生まれたばかりの赤ちゃんです。青ちゃんの両親はどちらも一人っ子なので、周りの大人6人から可愛がられています。
青ちゃんの母親 殷さん
「父方と母方の祖父母、そして両親は、この子中心です。でも、この子は将来、6人の世話をするのだから、重圧ですね」
 
青ちゃんの母、殷さんはもう将来の心配をしています。確かにこの子は結婚したら、12人も世話をしなければなりません。
 
ある調査によると、北京市民の35%が老人4人の世話をしなければならないそうです。
 
【司会者】人は老いていくもので、どの家にもお年寄りがいます。中国の高齢者人口が増えるにつれて、政府は老後の社会保障問題を直視しなければならなくなります。
 
【何清漣】中国の「高齢化」の最大の問題は、老後の保障ができなくなる点です。中国人が言う、「老後のために子供を育てる」には、2つの希望が託されています。子供が多いことと、老後の世話をする力が子供にあることです。
 
 
でも今、大卒でも仕事につけない「ニート」が出現し、若者の失業率も高いため、親が子供を世話し続けるケースも出てきました。
 
農村の多くの地域でも、親の世話をしない現象が現れました。だから、農村ではいったん働けなくなると、悲惨です。
 
中国は今、農業社会から近代化した社会への過渡期にあります。だから、子供に頼る老後から社会へ依存した福祉制度に転換するべきです。ここでは、政府の責任がきわめて重要です。
 
【司会者】21世紀に入り、中国は高齢化社会へと突入していきました。欧米では「銀髪プロジェクト」が提案され、中国の高齢者市場に高い投資意欲を見せましたが、これはどういうことでしょうか。
 
【何清漣】海外の多くの国は福祉が手厚いので、高齢者の購買力は悪くありません。だから、中国の3億人の高齢者市場に期待したのでしょう。
 
だから5年ほど前から、「銀髪産業」という言い方が出てきました。中国で老人ホームや老人介護といった事業をするのが狙いです。
 
アメリカのある調査会社が、「銀髪産業」に関する調査を行ったところ、事前の予想と実情には大きな開きがありました。報告書によると、中国では年金保険に入っている人が総人口の25%に過ぎず、公務員は、その25%のうちの3%に過ぎません。
 
つまり、中国の高齢者市場は決して明るくないのです。この報告書が出て以降、欧米はこの「銀髪産業」への希望がうせたようです。今で、もう触れる人もほとんどいません。
 
就業待ちでも
失業しても
社会保障の
恩恵がない
耐え難い重荷
社会保障編 
「透視中国」がお伝えしています
 
仕事は庶民の生活の基本です。中国の労働・社会保障省の予測によると、中国では毎年仕事が必要な人が2400万に達するものの、実際にはその半分しか雇用を確保できません。深刻な失業問題が中国を襲っています。
 
【司会者】失業は、世界的な問題です。多くの国は、社会保障制度を整備することでこの難題を解決しています。
 
中国・共産党政府は、1951年に公布した「労働保険条例」で、老後、労災、出産、遺族などの各種保険について定めました。しかし、政府は社会主義には「失業」問題は存在しないとして、「失業保険」は社会保険システムから除外されました。「失業」この言葉は国の公の発言から消え、「就業待ち」「リストラ」という言葉が使われたのです。
 
1986年、国務院は、国有企業および労働制度の改革を進めるため、国営企業が職員へ失業保険をかけることを定めた規定を公布しました。
 
1999年1月22日、国務院は「失業保険条例」を公布。正式に「就業待ち保険」を「失業保険」に変えたほか、保険の範囲を拡大しました。
 
【司会者】当局の「労働と社会保障事業の発展『十一.五』の概要」によると、都市部の就業人口7億6千万人のうち、失業保険に入っている人はわずかに1億6千万人。86.1%もの方が失業保険でカバーされていないのです。
 
【何清漣】中国の「失業保険」には、非常に多くの問題があります。まず、3つの集団が失業保険からもれています。
 
まずは民間企業と外資企業の従業員。失業保険の対象外です。
 
2つ目は、国営企業。国営企業の職員は、2007年以降しか、失業と認められません。目下、「リストラ」という言い方が使われています。
 
3つ目は、「新たな失業グループ」。これはつまり、15歳から29歳までの年齢層をさし、中卒や高卒、あるいは大卒なのに仕事が見つからない人です。
 
彼らにはまったく「失業保険」がなく、正確な統計データもありません。ただ、彼らの失業率は社会全般の失業率よりも高く、9%に達します。
 
武漢や広州などの大都市の調査によると、この3つの集団の失業者数は、すでに国有企業のリストラ者の数を超えています。しかし彼らは、カバーの範囲外です。
 
この「失業保険」ですが、2005年、「失業保険」に入っていたのは、1億600万人あまりでしたが、実際に失業手当を受けとれたのは失業者のわずか10%あまりです。
 
これがつまり、失業保険が「強者クラブ」と呼ばれるゆえんです。失業手当を受けられるのは、国有企業から「失業」と認められた人だけだからです。
 
しかも、失業手当は全額もらえません。例えば、300人に失業手当を出す場合、今月は100人が受け取り、来月はほかの100人が受け取り、再来月は別の100人が受け取る。
 
でも上には「300人が失業手当を受け取った」と報告します。実際は、全額はもらってないのです。でも、もらえるだけいいほうです。多くの人は全くもらえないのですから。
 
【司会者】先ほどおっしゃった「リストラ」ですが、失業保険でカバーされないなら、彼らはどう生活するのですか。
 
【何清漣】国営企業の「リストラ」職員で、「失業」と認められていない人は、「リストラ」手当てしか受け取れません。今、失業手当を受け取れるのは、実際の失業者のうち10%ほどに過ぎず、失業者が社会保障を受けられないでいます。
 
2007年の当局の報告書には、2006年の実際の失業者の数が書かれていなかったので、私は求職者の数を調べてみました。
 
例えば、「発展改革委員会」によると、2007年の求職者のうち、1100万人しか仕事につけず、1500万人は全く仕事につけませんでした。つまり、2600万人が失業状態です。ただ当局は「失業人口」とは呼びませんが…
 
救急車の音で
蓄えも消える
貧困を抜け出したら
病気が再発
耐え難い重荷 
社会保障編
「透視中国」がお伝えしています
 
中国社会科学院の2007年「中国社会白書」によると、都市部の住民にとっては、医療、雇用、失業問題、貧富の格差の拡大が今、最も深刻な3大社会問題です。
 
4位から10位までは
汚職・腐敗
老後・年金
教育費
住宅価格
社会の治安
社会の風紀と環境汚染問題となっており、医療問題が第一位でした。
 
2001年から2005年までの「社会白書」によると、都市部住民が最も関心を持つのは、ずっとリストラと雇用問題でした。それが2006年には、「社会保障」に変わります。
 
【司会者】住宅、教育、医療の問題は中国でずっと社会の関心を集めてきました。これを肌で感じる庶民は、これらを「三つの大山(たいざん)」と呼びました。
 
毛沢東は当時、「帝国主義、封建主義、官僚資本主義」を中国人にのしかかる三つの山に例えましたが、今、中国人は「新たな三つの大山」という言葉で、教育、住宅、医療から受ける重圧を表現しています。
 
では住宅と教育に比べて、医療がもたらす苦しみとは何なのでしょうか。次の2本のVTRは北京の2つの病院を取材したものです。ここから庶民の切実な医療問題が実感できると思います。
 
これは早朝6時、北京の同仁病院の診察受付のようすです。
 
患者A 「3週間も待っています」
記者「いつから来ていますか」
患者B 「もう、10数日になります」
記者「医者に会えましたが」
患者B「まだです。午後会いたいです」
記者 「ではこの10数日間、北京で何を」
患者B「旅館住まいです」
記者「受付のために」
患者B「はい」
患者C「本当に大変です。東北から来ましたが、眼科の診療のために、数日も待っているのに、まだだめです」
 
これは早朝6時、北京のある病院で撮影した様子です。
記者「何時から並んでいますか」
患者A「朝4時に家を出て、5時半に着きました。天津からです」
      
患者B「河北省から来ました。夜12時に着きました。まだ受付できません。疲れます。まだ眠いです」
 
 
病院の診察の受付は、朝7時に始まりますが、6時にはもう人であふれかえっています。地方から来る人も多いですが、その場合、高価な医療費のほか、旅費や宿泊費などのお金もかかります。
 
患者C「受付費用だけで300元、    まだ並べていません」
患者D「もう3日です。月曜日から待っています」
記者  「使ったお金の額は」
患者E「宿泊だけでも200元以上」
患者  「手術費で3000元。2回の手術の間にかかった。交通費や食費のほうが、    手術費よりも高いです」
 
【司会者】先ほどの2本の映像から、どれほど中国人が医療で苦労しているのかが垣間見えると思います。引き続き、高額の医療費について、何清漣さんの分析を伺いましょう。
 
【何清漣】中国の庶民が負担する医療費は、この10年ほど、急速に増えています。1つは、医療費そのものの費用が増えているためです。1984年の140億元強(約1700億円)から、2005年には6600億元強(約8兆円)にまで増えました。
 
中国経済はこれまで高度成長を維持してきましたが、政府が負担する医療費は、逆に年々下がっています。一方、庶民の個人負担は増えています。現在、庶民の負担する医療費は、医療費全体の55.5%を占めます。
 
中国の都市部の個人収入は、毎年平均で8.9%増えています。農村部では、2.4%の伸びです。しかし、医療費の支出の伸びは、都市部で13%以上、農村部では11%以上増えています。医療費の伸びは、収入の伸びを遥かに超えるのです。教育や住宅の費用の上昇は、もっと急激です。
 
それで誰もが病気になるのを恐れます。この恐怖感は相当なものです。病気にかかっても病院に行かない人は、都市部で5~6割に達します。入院すべきなのに入院しない人も4~5割を占めます。農村部では、7割以上の人が病院に行きません。結局、治療が手遅れになります。
 
ここ数年、中国にはこんなニュースが毎年伝えられています。湖北省の陳さん夫婦は、不治の病にかかったのに、治療費が工面できませんでした。そこで、自分の息子を残したまま、夫婦で心中する道を選びました。
 
さらに、家族の病気を治すために、自らの腎臓を売って、治療費を得ようとする人がいます。家族に病人がいれば、その治療のために、別の人が不健康になる。こういう話は、中国ではめずらしくありません。ごく普通の家庭が、たった1人でも病気になると、全財産を失う。こんな例は尽きません。
 
【司会者】次のVTRでご紹介するのは、もっと悲しい話ですが、まさに今日の中国で起こった真実でもあります。
 
まだ死んでもいないのに、葬儀場(そうぎじょう)に送られた人がいます。尤国英(ゆうこくえい)さんです。10月24日、脳出血で入院したものの、治療費が払えないため、その3日後、家族は、治療の断念を申し出ました。
 
尤国英さんの娘婿
「主に治療費のためです。1日5000元もかかり、払えません」
 
家族の求めに応じ、病院は尤さんを家族が借りている部屋に移すことにしました。しかし、部屋の大家は、「死人は駄目だ」と断固として拒みました。
 
台州病院・路橋院区 徐祖建・副院長
「家族は泣き出しました。もう死んだと、それで火葬場に行くよう。要求しました」
 
このようにして、まだ息のある尤さんが葬儀場に送られることになったのです。
 
台州市・葬儀場の職員
「きちんと服を着させた後、酸素をはずしましたが、彼女はまだ生きていました」
 
葬儀場の職員などが見かねて、その場で寄付して、尤さんを病院に送り返しました。
 
尤国英さんの娘
「仕方なかったからです。
見知らぬ方々が母を助けてくれたのに、私たち家族は何も・・・」
 
尤さんは今、台州病院で治療中です。まだ軽いこん睡状態で、人工呼吸器が必要です。
 
病室では、尤さんの娘夫婦がここ数日ずっと、付き添っています。母親を葬儀場に送ったことを後悔してやみません。
 
【司会者】
このような悲劇は、切羽詰った状態にならなければ、決して起こることはありえません。重い医療費は人間の倫理をも変えてしまうのです。
 
1985年、中国は計画経済モデルのもとの医療体制を変えるため、医療改革を決定。国務院は、1992年「衛生改革を深化させるいくつかの意見」、1997年「衛生改革と発展の決定」、2000年「都市医療衛生体制改革の指導と意見」などを出しました。
 
 
しかし、医療改革を進めれば進めるほど、問題は多発し、庶民の怒りを招きました。中国の医療保険改革に対し、「7つの不満」で総括した人がいます。
 
政府が不満
病院と医師が不満
病人が不満
都市住民が不満
農村住民が不満
金持ちが不満
貧乏人も不満
 
【司会者】このように、各方面の不満を呼んだ医療改革ですが、その問題、あるいは弊害は一体どこにあるのでしょうか。次のVTRは、中国中央テレビ制作の、中国の医療衛生制度の構造と改革についての番組です。
 
基本的な医療制度は、4つに分かれます。公共衛生サービスシステム、医療サービスシステム、医療保障システムと薬品供給保障システムです。公共衛生サービスは、病気予防の機関を含みます。
 
医療サービスシステムとは、各種の営利非営利の医療機関。医療保障システムとは、各種医療保険などで、薬品供給保障システムとは、薬の生産と流通を含みます。基本医療衛生制度の重要な点は、医療保障システムを整備することです。
 
1994年、国務院は江蘇省の鎮江と江西(こうせい)省の九江の一部都市で社会医療保険制度の実験を開始。
 
1998年、国務院は都市部在職者の基本医療保険制度の設立を決定。社会基金と個人の口座から成ります。しかし様々な原因で、実行は難航。
 
結局、個人が医療費の主な負担者になりました。2003年、全国の医療費の総額のうち、個人の負担は56%で、政府の負担はわずか17%。ドイツでは、少なくとも約80%を国が負担し、アメリカでも、政府が45%ほど負担しています。
 
【司会者】
このVTRを見ると、中国の医療衛生システムは厖大で、医療保険制度の改革は、医療制度改革の一部に過ぎません。中国の医療体制の構造を理解した後、具体的な政策についても探っていきましょう。
 
【何清漣】
1985年の医療制度改革の前、都市部の在職者は主に、「公費医療」制度を受けていました。無職だともちろん、「公費医療」は受けられません。
 
一方農村は、「合作医療制度」です。文化大革命のときは、「はだしの医者」という、専門の教育を受けていない医者が農村にいました。それでも、それぞれの生産部隊に配置され、常用薬も備えていました。解熱剤や痛み止め、アスピリンなど、農民はこれらを無料で使えました。
 
1985年の改革以降、医療制度は2つの面から発展していきました。都市部では「社会保障制度」ができたものの、カバーされない人が出ました。
 
まずリストラされた労働者。そして無職の人。もう1つが地方から来た人たち。彼らは都市の社会保障システムに入られません。
 
改革前の「合作医療」と「はだしの医者」では、少なくとも農民は病気を診てもらうことができましたが、1984年以降は、政府の補助はほとんどなくなりました。
 
「合作医療」のカバー範囲は、1980年の69%から、1983年には20%に下がり、1986年には5%にまでなりました。
 
中国政府の発表によると、1991年から1999年の10年間で、「合作医療」に投じた費用は、中央政府が毎年500万元、地方政府も500万元に過ぎません。
 
一方、中国の農民は9億人近いので、1人当たりわずか1元の100分の1ほどです。このあと、徐々に増えて、1人当たり35元を投じるようになったものの、これでもまだまだ足りません。
 
【記者】
では、中国の医療改革は一体何を変えたのでしょうか?
 
【何清漣】それはずばり政府の負担を病院に押し付けたことです。医療費は元々政府が全額負担していましたが、改革後は、ほとんどの資金を病院自身で工面するよう求めたのです。いわゆる「市場化」です。
 
【司会者】
国務院・発展研究センターの葛延風(かつ えんふう)副部長は、2005年7月28日、「中国青年報」に対し、「目下、中国の医療制度改革は成功していない」と発言。
32;20~32:41
葛氏が責任者を務める研究チームは、報告書で、中国の医療制度改革に対する評価と反省をしています。現在の医療体制には商業化、市場化の傾向が強く、全くの誤りで、医療の基本的な原則に背いていると指摘。
 
【何清漣】
医療保険改革は、確かに中国政府の大失敗です。いわゆる失敗というのは、3つの特徴があります。
 
第一に、「医療保険」のカバー範囲が狭すぎます。都市部でも半分未満。農村部では8割以上が入っていません。中国全体でも、約8億人以上が「医療保険」からもれています。
 
もし、大きな病気にでもなったら自分で解決するしかありません。そうすると、たった1人の病気治療のため、長年築き上げた家庭の財産を全部失う恐れがあります。
 
第二に、医療の公益性が失われた点です。つまり公的資金の投入が少なすぎます。
 
例えば欧米の先進国では、医療への公費の投入は、75%ほどを占めます。一部の後進国、例えば東ヨーロッパの国では、やや低めで70%前後です。
 
しかし発展途上国、例えばインドでも50%余りです。一方の中国は44.2%ほどに過ぎません。そのうち政府が出すのは17.2%に過ぎず、社会の支出が27%を占めます。
 
第三に、個人負担の増加です。2005年、中国は「衛生統計の摘要(てきよう)」を発表。これによると2003年、中国の医療費は合わせて7000億元近く、約8兆5000億円使われました。
 
そのうち政府が出したのは17.2%、社会の投入は27%のみです。「社会の投入」とは一部の企業などの支出です。そして、個人負担は55.5%。この三つから、「医療保険」改革は失敗したといえるでしょう。
 
なぜこんな状況が生まれたのでしょうか。これは当初の改革の時に選んだモデルと関係します。1985年、医療改革の当時、中国は2つの現実に直面していました。1つは、国家の財政負担が重過ぎること。もう1つが当時の「公費医療」には多くの無駄があったことです。多くの病院は、髪を洗うシャンプーなどの衛生用品でさえ、医薬品として出していました。無駄をなくすために改革を始めたのです。
 
これらの負担をのぞくため、政府はどう改革を進めたのでしょうか。まず、権利を捨てました。そして、病院自身に資金調達をさせました。しかしこれらは、「市場化」の潜在的な危険になっていきます。
 
結果、病院の医療費が急速に上がり、政府の補助も減り、医療の公益性はほとんどなくなりました。
 
2000年、世界保健機関WHOが加盟国に対し、社会からの資金調達と公平性の順位づけをしました。結果、中国は社会からの資金調達では、WHOの定めた最低レベルの5%に近いものでした。
 
しかも、191か国の中で、公平性は下から4番目。公平性とは、誰もが病気の時に医者にかかれる権利を持つことです。中国はこれができていません。
 
都市部では、5割あまりの人しか医療保険制度改革のメリットを受けられず、農村部では、2割の人しか、低レベルの合作医療の恩恵をあずかれません。
36:18~35:37
中国の発展改革委員会は、2005年の報告書で、ついに中国の医療体制の大きな不備を認めました。この報告書が出ると、中国の医療保険制度改革は、非難の嵐にあいました。
 
【司会者】
医療制度の不公平とは?
 
【何清漣】まず、医療資源の分配が不公平です。人口の30%を占める都市部住民が医療資源の3分の2を独占し、70%の農村部住民は、3分の1しかあずかれません。
 
2つ目の不公平は、収入によって受けられる医療サービスに大きな差があることです。中国には、基礎的な医療保険がないので、病院に行くと、けた違いの額の薬代と医療費を請求されます。だから、自分の収入に合わせて受診します。
 
中国では今、収入の分配が不平等なので、中国の医療サービスにも格差が生まれています。つまり、金持ちや官僚が優れた医療サービスを受けている一方、普通の患者は必要な治療や政府の援助さえ受けられないでいます。これは中国社会全体の分配体制の深刻な不備が、医療システムに現れたのです。
 
もう1つの不公平、それは公的資金を投じている医療保障が、ランクで分かれていることです。例えば、公務員。地位によって、受けられる医療サービスが違います。例えば、局長レベルや、1949年以前から働いている幹部は待遇が違います。知識人も肩書きで受けられるサービスが違ってきます。
 
このやり方は間違っていると思います。公共の医療サービスは、誰もが最低限の医療を受けられるよう保障するのが目的です。共産党政権ですから、もし党の幹部に特権を与えたいならば、党費で解決すべきで、納税者のお金を使うべきではありません。
 
【司会者】誰もが生まれ、成長し、年老いて亡くなりますが、その過程は、医療と切り離せません。例えば、病院、医者、薬などです。病気になって困った時に、医療費を一体誰が負担するのでしょうか。ここから医療保険の重要性が実感できます。
 
【何清漣】海外の社会保険制度には、こんな原則があります。「大数原則」。大とは、大きいの意味です。「数」とは数のことです。つまり、ある人の命や生活は、他人にとっては恐らく重要ではないだろうけれど、本人にとっては100%大事です。もし、損をすれば100%自分の損になります。
 
では、なぜこの種の保険に入る必要があるのでしょうか。簡単です。社会のセーフティネットを作るためです。自分のために安全を買うのです。実際は保険会社も儲けてはいますが、一部は、病気になった他人に使われます。つまり、医療保険の加入者の中で、健康な人が病気になった人を養うのです。しかし、病気の人も、健康だった時には他人を養っていました。つまり、自分のセーフティネットを作るために、お金を払っているのです。若い頃、様々な税金を払うのは、今の高齢者のためです。今の高齢者はかつて、やはり上の世代を養っていました。社会保険はお互いを養うものなのです。
 
世界各国の医療市場を見てみると、どの国でも、国と市場の関係の調整が必要になってきます。でも、どの場合も、2つの大きな流れがあります。
 
1つは、医療保険のカバー範囲が広がっていること。多くの先進国は、国民皆保険です。この点、中国は全くできておらず、農村部の8割の人が保険に入っていません。都市部でも半分近くの人が加入していません。だから、中国は国民皆保険の目標からかけ離れています。
 
2つ目は、医療保険市場が管理された市場へと成熟していくことです。でも中国はこの面で非常に遅れています。市場が未整備なのです。
 
医療保険制度の改革の欠陥をまとめるのは簡単ですが、この欠陥を作り出した原因は、複雑です。よく言われるのが、過度な市場化がもたらした、つまり「市場経済」が招いたと言われます。
 
これに私は同意できません。中国は「市場経済」国家だと自称しており、「医療保険制度」改革も「市場化」を叫んでいるものの、これは、本物の市場化ではありません。
 
一方欧米では、整備された市場経済制度のおかげで、最大の公平が生まれました。社会保障制度も生まれました。同時に、一切の特権と独占にも反対しています。でも共産党は一切の良くないものを資本主義に押し付けます。この医療保険に、ランク付けを導入するなど、これは市場化に逆行しています。
 
だから私が思うに、市場経済が問題を招いたのではなく、中国の特権政治が医療保険制度の改革に反映されたのです。もし中国が今の政治体制を改革せず、この種の特権、権力至上の政治体制では、医療保険制度の改革でも、その特徴が出てくるはずです。
 
中国の医療保険改革は基本的に失敗です。でも中国政府が、自分の失敗を認めるというのは大変困難なことだと思います。中国政府には、自分の失敗を直視する勇気がないからです。
 
医療改革法案が登場
我々の期待とは?
社会保障は政府の責任
彼らが約束するものとは?
絶え難い重荷
社会保障編
「透視中国」がお送りしています
 
【司会者】
当局は新たな法案が出すようです。これに、多くの方が期待をしていますが、先生はこの新法案にどんな期待や見方をされていますか。
 
【何清漣】中国政府に関しては、言うことを鵜呑みにしてはいけません。行動を見るべきです。言葉だけだったら、中国政府は世界で一番のはずです。
 
医療制度の問題は、もう小手先では修正できません。変えるには、大手術が必要ですが、中国政府には、その力がありません。それは、いくつかの利益集団に波及するからです。
 
まずは、衛生部門の官僚、そして医療システム、製薬業界など。この複雑に絡み合った利害関係は、政府の命令で変えられるようなものでは全くありません。
 
簡単な例を挙げましょう。深センで医者が開業するには、まず営業許可証が必要です。医者は恐らく自分では持っていないので、病院に借りに行きます。病院は営業許可証の写しをたくさん作って、院長はこれで儲けられます。
 
ただ院長も、この利益を独り占めできません。毎年、関係部門の官僚にも上納します。そうでないと、年1回の審査を通れません。翌年には院長の座を追われたりするかもしれません。
 
人事や衛生部門にも上納する必要があります。医療業界の独占性は、これらの人の不正の資本になりました。
 
また、医療制度は社会全体のシステムの一部に過ぎず、社会全体のシステムの不合理な部分が医療事業に反映されているに過ぎません。だから、これを変えようとしたら、まずは社会システム全体を良い方向に持っていかなければなりません。良い政治システムと社会を支えるシステムなしに、医療システムだけを変えることはできません。
 
【司会者】
先ほどおっしゃった三大保険、先生は中国の社会保険保障制度について、どう評価しますか。
 
【何清漣】社会福祉制度は、欧米では社会のセーフティネットと呼ばれています。つまり、ある人がトラブルにあったり、年を取ったりした時に最低限の生活費を保証する。病気になったら、最低限の医療を受けられるよう援助する。失業したら、困難を乗り越えられるよう補助金を出すことです。
 
この「三大福祉」は、資本主義制度が19世紀末になって検討され始めたものです。当時、資本主義はマルクス主義から激しい批判を浴びていたので、自己反省を繰り返し、最後、社会民主主義へと踏み出し、西欧の多くの国は、高福祉国家になりました。
 
つまり、資本主義初期から中期の、失業しても失業保険がなく、病気になっても医療保険もなく、退職しても年金もない状態から抜け出して、社会福祉制度を徐々に完備していったわけです。
 
欧米社会が社会福祉制度を確立する前、労働者と資産家の間の摩擦や闘争は激しいものでした。そして、第2次世界大戦後にイギリスのチャーチル首相がまず、「揺りかごから墓場まで」という社会福祉制度を築きました。その後、ヨーロッパ諸国もこれを真似ていきます。
 
例えば、スウェーデン、フランス、イギリス、ドイツ。これらはみな高福祉国家です。
 
ただ高福祉は、国の負担になっているので、改革を進めていますが、中国にはいまだに福祉がありません。
 
たとえで言うと、ダイエットが必要なほど太っている人がいるのに、一方で全くご飯すら食べられない人がいます。我々は、高福祉制度の教訓をくむべきです。どうやって中国人に少しでも福祉を享受してもらい、社会のセーフティネットを築き上げ、中国人に生活の安心を感じてもらうのか…
 
庶民の暮らしが幸せかどうかは、まず安心感が決めてです。年を取ったら養われ、病気になったら医者にかかれる。これは最も基本的なことですが、中国では年金制度が整備されていないうえ、病気になった時の保障もありません。
 
このような重圧のもと、中国人は巨大な不安感を抱いています。自分の将来に自信が持てず、この社会の公平性や社会制度の合理性に大きな疑問や反抗心を持っています。
 
こんな例があります。2005年8月8日、福建省の42歳の農民は肺がんになったのに、お金がなく治療もできません。そこで爆弾を作ってバスに乗り、爆発させたのです。本人以外に、乗客1名が死亡、30数名が重傷を負いました。
 
中国政府がもし、「改革」の看板を掲げ続けるのなら、必ずいくつかの制度の欠陥を正さなければなりません。「調和の取れた社会」と叫ぶだけでは駄目です。結局は、社会のセーフティネットを作る気さえないのです。
 
【司会者】
ある国の社会保障制度の整備は、その国の経済レベルや生活レベルと関係しますか。
 
【何清漣】
関係します。確かに社会保障制度は、その国の経済レベルや福祉レベルを体現します。ただし、それは政府の性質とも関係します。中国のセーフティネットが整備されないのは、中国政府の性質とも関わっていると私は思います。
 
民主的な政府には選挙があります。庶民の声に耳を傾けます。中国の独裁政権の政策は、どんな時であっても、民意と関係しません。だから庶民の求めるものや訴えを全く考慮しません。
 
社会保障基金
腐敗振りには目を見張る
庶民の大切な年金が
汚職官僚を肥やす
絶え難い重荷
社会保障編
「透視中国」がお伝えしています
 
【司会者】
これまで社会保障問題を分析してきましたが、今度は「社会保障基金」について触れていきたいと思います。
 
社会保障基金は、社会保険基金、全国社会保障基金、補償補完基金の3つに分かれます。
 
このうち、企業と個人が払う社会保険基金が一番重要です。主に、基本的な年金や失業、医療、労災や出産保険の基金になります。
 
庶民が通常もらう年金や失業手当はこの基金から支払われます。このため、社会保障基金は被保険者の「命をつなぐ金」と呼ばれます。
 
【司会者】つまり、この社会保障基金のお金は、億に上る退職者の老後の資金であり、命をつなぐお金です。しかし、これが横領や腐敗の温床になっています。2006年、全国労働保障システムの座談会で、社会保障基金の不正行為が報告されました。なかには、数十億元に達する案件すらありました。
 
2006年にはもっと有名な、上海の陳良宇市長の「上海社会保障基金事件」が発生。改革開放以来、上海で最大の汚職事件です。
 
経済学者の呉敬璉氏の指摘によると、徴収したお金をすぐ支払いに使う社会保障システムには欠点があります。行政機関が費用の徴収から支払いまですべての権利を掌握している点です。しかも、庶民に報告する必要もなく、管理の制約を受けないため、腐敗の温床になるのです。
 
【司会者】社会保障システムは「社会のセーフティネット」のようなもので、庶民に最も基本的な保障を提供します。「社会保障制度」は経済成長の潤滑油に例えられ、あるいは社会の安定に役立つともいわれます。
 
中国共産党が大々的に、調和の取れた社会を築くと宣伝する今日、その独裁政治によって、中国社会にはかえって危険があふれかえっています。政権の利益をわずかでも犠牲にして、社会にセーフティネットを築けるならば、多少は社会を安定させられるかもしれません。
 
では、本日の「透視中国」はここまでです。ありがとうございました。次回また、お会いしましょう。
 
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