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カルテ(二十二)―漢方にもあった心理療法

2010年04月12日

心理カウンセラーに心理療法士、さらには臨床心理士など昨今いわゆる「心理」をめぐる職業は花盛りといってもよい。だが、これはどれも西洋医学の範疇内のもの。漢方の出る幕などないのか。いや、実は漢方にとって心理療法こそ、お手のものなのだ。まずは胡乃文先生と李小昆さんの話に耳を傾けてみよう。

時はさかのぼること1800年。古代の名医・華佗(かだ)はある時患者を診ると、本人に面と向かってこう言い放った。「君の命はせいぜい10日だ。急ぎ帰宅し、親に別れを告げなさい」
 
なんと情け容赦ない宣告であろう。たとえ、それか本当であったとしても、これほど酷な言葉をはばからずに言うとは。華佗といえば歴史上、屈指の名医である。古代の名医は高い徳も備えていたはずだ。その華佗が一体なぜ?
 
実は華佗にはある考えがあった。この患者の病は過度な「喜び」が心(しん)を傷つけたためだと気付いた華佗は、この「喜び」を抑えるため患者に「驚き」を与えようと考えた。「驚き」の腎は「喜び」の心(しん)を制するからだ。すなわち「驚きは喜びを制する」。これは、漢方の相生相克の理論に基づいている。そのため華佗は、人にとって何よりもショッキングな出来事――「命の危険」を告げたのである。こうして華佗はなんら薬に頼ることもなく、患者の病を治したのであった。さすがは名医である。
 
これこそ紛れもない心理療法ではないか。そう、心理療法は西洋医学の特権ではないのだ。漢方にも、はるか昔から確かに存在する。しかも、漢方の心理療法の醍醐味はなんと言っても、自然治癒力を最大限に活用している点だ。これも、深く鋭い洞察力で人の命を見つめた賜物だ。この奥深くて不思議な漢方の世界、まだまだ続きます。次回もお楽しみに。

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