HOME > ニュースページ > 漢方の世界 > 詳細

カルテ(二十六)―医者は「術」「徳」どちらも備えるべし

2010年04月26日

人は病気になれば誰しも不安になる。だから患者は、医者に自分の話をじっくり聴いてもらいたい、医者から患者自身の立場に立ったアドバイスがほしい、と願うのだ。だが医者も多忙だ。診察してもらっても、丁寧な説明を聞けなかったり、ひいては心ない言葉を吐かれたりなど、つらい思いをしたことのある方も少なくないだろう。

だから昨今言われだしたのが、医者としての心を育てる重要性だ。医学生を指導する際、知識や技術面のほかに、患者の心を理解すべく体験授業を組むなど、各大学も工夫を凝らしている。温かい心を持った医者を育ててほしい――そんな人々の願いに応えるためである。
 
はるか悠久の歴史を誇る漢方。実はこの漢方では、医者の心すなわち「徳」をずっと重んじてきた。いうなれば徳がなければ秘伝を授かることができなかったのである。優れた師は、何よりも弟子の「徳」を重んじたのだ。
 
胡先生が番組で取り上げたのは扁鵲(へんじゃく)だ。扁鵲の師・長桑君(ちょうそんくん)は十数年もの間、扁鵲を注意深く観察した。そして扁鵲の人柄に確信を持ったとき、初めて秘伝を伝授したという。華佗にも逸話がある。「自分は必ず優れた(技術にとどまらない)医者になる」と約束して、ようやく医術を師から伝授してもらえたのである。
 
これら著名で優れた古代の漢方医は多くの深刻な病、今で言う難病さえ治したそうだ。それに引き換え、今ちまたで言われるのは「漢方では重病や急性の病は治せない」。これでは昔と逆だ。実は漢方に重病を治す力がないのではなく、重病を治せる漢方の奥義が途絶えたためではないだろうか。だとすれば、この奥義が途絶えてしまった原因は、他でもない「徳」が関係しているにちがいない。医者としての高い「徳」を備えていなければ漢方の奥義を授かることができないからだ。
 
「医者には優れた医術のほかに、立派な医徳も必要だ」。人々はようやくこの点に気付き始めたが、漢方では遥か昔にこの重要性を認識していたのである。

 

トップページへ