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カルテ(三十三)―酒を断つ妙薬「ケンポナシ」

2010年07月18日

今回、李さんが冒頭でご紹介するのは、およそ千年ほど前の名医、張子和のカルテである。張子和はある時、奇妙なケースに遭遇する。幼い子が3日3晩、眠りから一向に目覚めないのだ。何か深刻な病にかかったのではと案ずる親をよそに、張子和はこっそりとその子の乳母に尋ねた。「深酒をしたのでは?」ずばり言い当てられて、乳母は思わずうろたえるのだった。

子供が3日も眠り続けてしまった、この謎めいたケースだが、張子和の見立てでは乳母の深酒が原因。つまり、乳母の摂取したアルコールが母乳を通じて子供の体内に入ってしまったと考えたのだ。実際にこれがありうるのか断言できない。だが、張子和が子供に酔い覚ましの薬を出すと、その子はすぐに目覚めたという。どうやらやはり、深酒が原因だったらしい。
 
張子和がこのケースで出した処方は、酔い覚ましの薬だが、漢方はこれだけにとどまらない。禁酒をサポートする薬すらあるのだ。
 
女兒紅あるいは状元紅といった名前をお聞きになったことがあるだろうか。どちらも酒の名前だが、中国南部に残るある風習と関係する。一部の地域では、娘が生まれると酒を仕込む。その酒をずっと寝かせておき、娘が嫁ぐ時になったらそれを取り出し、嫁入りの際持って行かせるのだ。酒を仕込む時、通常は酒の匂いでむせ返るはずだが、ケンポナシという木を植えておくとあまり匂わないのだという。だからケンポナシの種を粉末にして飲むと、酒を美味しいとは感じないので禁酒の助けになる。
 
豊かで思いがけない話にあふれる漢方の世界。これからも、えりすぐりのエピソードをご紹介します。お楽しみに。

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