今では多くの女性が政界に経済界など、ジャンルを問わず様々な分野で活躍している。それにひきかえ、昔の女性は気の毒だ。自らの能力を発揮する場がなく、内でも外でも重要な決定に加われなかった。いわゆる男尊女卑の時代である。だが、本当に女性は軽視されていたのであろうか。
ここに面白い示唆がある。漢方には古くから、優れた婦人科の書物が残されてきた。例えば唐の時代の名医・孫思邈(そんしばく)が記した備急千金要方(びきゅうせんきんようほう)。ここでまず触れるのは婦人科、その次が小児科となっている。なぜ、孫思邈は婦人科を冒頭に持ってきたのか。それは次代を担う子供を生む女性こそ大事にすべきだ、と考えたからである。しかも、そのような女性へのいたわりの思いが社会一般に広く共有されていたのだ。
時代は下って明から清へと移り変わる頃、傅山こと傅青主という名医がいた。この傅山も『傅青主女科』という婦人科の書物を記している。ここには女性の健康や病気について多くの論述があるが、その中で胡乃文先生が強く推薦するのは「保産無憂散」という処方だ。妊娠期から出産までの各段階の妊婦の体を守る処方として、胡乃文先生は「絶対に常備してほしい」と訴える。突然の流産や腹痛、出血を避けられるほか、子宮外妊娠の改善やスムーズなお産にも役立つという。
妊婦が身近にいたら、この妙薬「保産無憂散」を忘れずに薦めたいものだ。だが、何よりも大切にしたいのは妊婦に対するいたわりの心。古人が脈々と受け継いできたこの思いを、我々も心に深く刻みたい。