家屋を取り壊す
罰金を払わない人や決まった時間内に妊娠検査を受けない人に対し、計画生育幹部らが最もよく取る方法が家財の没収である。中国ではこれを「計画生育大会戦」と言う。没収する家財はテレビから食糧、家畜、土地に至るまで、何でも没収される可能性がある。多くの場合、家財を没収された村民は、計画生育部門に行って罰金を払い、もともと自分のものであった財産を請け出す。罰金を一括で払えない人は、数回に分けて払うことになる。あまりにも貧乏で、罰金を払えない村民に対して、計画生育部門は没収してきた家財を安い値段で売り出し、その金で罰金の帳消しをする。もう一つよく使われている手段は、「超生児」の家族の家屋を取り壊すことである。
ある日の午前、鎮政府の計画生育部門は「大会戦」を始めた。今回の「大会戦」の戦場は竹村で、対象は謝さんである。謝さんは恐ろしい表情をしている十数人の計画生育幹部を見て、お金を借りてすぐ罰金を払うと言って、お金を借りに行ったが、なかなか戻って来なかった。幹部らは威勢を見せるために、謝さんを待たずに彼の家屋を取り壊した。謝さんがやっと500元(約6,000円)を工面して戻った時には、家屋はすでに取り壊されていた。
現在、竹村の村民は計画生育幹部が村に入ってくると、家に鍵をかけて逃げてしまう。そのため、次のように泣くに泣けず笑うに笑えない事件が発生することもある。今回の「大会戦」の対象は陳さんだが、道を案内してくれる村の幹部がいなかったため、計画生育幹部らは違う家に入った。家には鍵がかかっているので、間違いなく陳さんの家だと判断し、家屋を取り壊し始めた。しかし、鍵を壊して家に入って見たら、実はそれは陳さんの家ではないと分かった。
家屋を取り壊すことは稀な例ではなく、密かにやることでもなく、公にやることで、しかも法律的根拠があるらしい。インターネットには次のような写真がある。このバナーは湖南省懐化市鶴城区涼亭坳卿で見かけたもので、この地域にはこのようなバナーがたくさんあり、計画生育政策を宣伝するスローガンの内容もたくさんあるが、内容はとても恐ろしいという。
横断幕の内容「違法で子供を生むとお前の家を取り壊すぞ」 (ネット写真)
「社会扶養費」の行方
報道によると、浙江省で2009年に徴収した「社会扶養費」は8.94億元(約110億円)で、前年より13%増え、徴収規模が初めて商工部門を超えた。安徽省では2010年、8.45億元(約105億円)に達し、前年より61%増えた。
中国大陸で長年計画生育について研究してきた学者の何亜福氏の分析によれば、1980年から現在にかけて、大陸での「超生罰金」(社会扶養費)の総額は1.5~2兆元(約186,080~248,107兆円)に達し、2011年だけでも全国31省市での徴収総額は200億元(約2,481万億円)に達するはずだという。しかし、この金がどこに行ったのかについては誰も知らない。
中国青年政治学院法律部の助教授・楊支柱氏の話によれば、中国の各省市では、「社会扶養費」(超生罰金)の徴収の仕事をすべて卿や鎮、街道(日本の町内会に当たる)に委託している。「社会扶養費」の収入と計画生育人員の給料は別計算ともいえ、「社会扶養費」の30%~40%を卿や鎮、街道政府に戻して、計画生育人員の奨励金や政府の費用として使う。国の財政局はただ財政収入の手続きをするだけである。一部地域では80~90%を卿や鎮、街道政府に残している。高報酬でなければ、このような不道徳な仕事をやる人がなくなるからだ。
情報によると、山東省政府は「社会扶養費」を全て計画生育の仕事に使うべきだと言い、省と市(地区)、県三級政府に5:10:85の比例で割り当てるように規定しているという。つまり、「社会扶養費」の85%の使用権が県政府にあり、計画生育の仕事さえすれば、どのように使っても構わないということだ。
計画生育幹部を励まして、「社会扶養費」の収入を増やすため、一部の県政府は卿や鎮、村の計画生育幹部に、「社会扶養費」の徴収金から一定の金額を出して営業報酬として奨励するように決めている。
中共が「計画生育政策」を実施してからすでに30年が経つ。中共の統計によれば、この30年間で中国の人口増加は約3億人減少した。しかし、この3億人のうち、どれぐらいの人が上述の悪運命に当たったのかは誰も知らない。中共が「計画生育政策」を実施した当初の目的は、中国の人口増加を減らすためだったかもしれないが、30年後の現在の状況から見れば、その目的はすでに変わったようだ。「計画生育」はただ人口増加率を制御することだけでなく、この政策を実施する過程において胎児を虐殺しながら金儲けをして、国の財政収入を増加する「殺人企業」になっている。現在中国のGDP成長率は世界2位と言われているが、その中に計画生育による収入も含まれているのではないだろうか。
(完)
(高峰 一)