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【透視中国】何清漣「耐えがたい重荷」住宅編 ナレーション版

2010年11月08日

【新唐人2010年11月9日付ニュース】皆様、こんにちは。「透視中国」の時間です。中国が改革解放を始めてすでに32年。国内外のメディアは、平和で豊かになっていく中国を盛んに報じています。例えば2004年度から数年連続で、中国のGDPの成長率は10%を超えていました。ところがその一方で、国民の生活負担は実際のところ、重くなる一方です。ある民謡が庶民の現状を如実に表わしています。

「住まいのため財布は空っぽになり、教育のため親は気が狂い、医療で命が奪われる」。住まい、教育、医療は中国人に重くのしかかる「新しい3つの山」と言われていますが、ここからは人々の厳しい暮らしぶりがうかがえます。
 
本日は有名な経済学者・何清漣(かせいれん)先生を迎(むか)え、中国人の最も切実な問題――住まい、教育、医療のお話をうかがいます。まずは住まいの問題をお聞きします。
 
【司会者】住まいは生きるために必要な、最も基本的な条件です。しかし、住宅価格が上がり続ける中、多くの中国人にとっては、住まいは高嶺(たかね)の花となっています。
 
2006年、中国指数研究院は住宅購入予定者1000名あまりにアンケートをしたところ、86.4%の人が高すぎて買えないと回答。「中国青年報」によると、住宅ローンを組んだ31.8%の人がすでにローンで首が縛られています。
 
「住宅改革が盛んになって、追い風が吹く。住まいは誰しもが望むものの、結局借金だけが膨らむ」。中国人の生活をこんなふうに皮肉る歌が流行っています。それでは、「3つの山」の中でも最も重い山、住まいの山はいかにして出来上がったのでしょうか。本日は、経済学者の何清漣さんにこの問題を鋭く分析してもらいます。
 
【何清漣】中国は90年代半ばから住宅の改革を始めました。つまり、住宅の商品化が始まったわけです。それまでは、住宅は福祉の一部として、自分の職場から割り当てられるものでした。改革が始まると、企業の負担を減らすために、住まいの商品化が全国で始まったんです。
 
最初に取り組んだのは広東省の深センでした。住宅は3種類に分けられます。
 
深セン市政府は不動産管理局を立ち上げ、その下に不動産開発会社を設(もう)けました。政府が無償で土地を割り当てて、住宅を建てさせます。公務員なら、勤務年数などに応じて、「福祉住宅」を供給します。企業に対しては、「福祉住宅」よりも価格が高い「薄利(はくり)住宅」を供給します。そしてもうひとつが「商品住宅」です。
 
 
改革の結果、深セン市の福祉住宅の価格はぐんと上がりましたが、最終的には商品住宅と同じにはなりませんでした。
 
 
【司会者】では、なぜ中国では住まいが「新しい3つの山」の一つといわれるのですか。
 
【何清漣】それは住まいの価格が庶民の所得と購買力を遥かに超えているからです。お金を一生貯めても、家を買うのは大変です。全国どこも同じです。過度期もないまま、中国はすぐに住宅の商品化が始まりました。公務員の福祉住宅がなくなったため、彼らは商品住宅を買う羽目になりましたが、住宅手当が出ない職場もあります。とにかく家庭にとっては大きな負担になりました。
 
中国の住宅価格は他の発展途上国より遥かに高いだけでなく、年収との比例で見た場合、欧米諸国よりも高いのです。アメリカでは一般家庭の7年の年収で家が買えますが、中国では12年以上もかかります。
 
中国では、一般家庭が飲まず食わずで、12年から14年の年収で、やっと普通の住宅が買えます。庶民が最も許せないのが、高すぎる住宅価格なのです。
 
【司会者】中国メディアの発表では、2000年から2004年まで、最も多くの暴利を得た業界は不動産業でした。2005年になっても、トップテン入りを果たしています。では、不動産業は一体どうやって暴利を得るのでしょうか。
 
【何清漣】中国では、2001年から暴利を得ている業界の番付が発表されています。毎年、首位を争っているのは業界、それは不動産業と教育産業このふたつなんです。
 
暴利産業といいましたが、海外では不動産の平均利益は5%に過ぎませんが、中国では、15%。90年代初期の「土地の囲い込み運動」の時、不動産の利益率は30%にまで達していました。
 
2002年版のアメリカの雑誌「フォーブス」によると中国の長者番付のトップ100のうち、40人は不動産開発業者です。2003年には少し減ったものの、それでも35人。それ以降はもっと多くなっています。これで分かるように、中国の不動産業は暴利業界で、業者はその恩恵を受けています。
 
【司会者】先ほどは「フォーブス」の中国の長者番付に触れました。では、世界の長者番付にランクインした資産家の中で、不動産業者の比率はどれくらいでしょうか?
 
【何清漣】最高でも5%です。中国だと…40%、35%。まったく比べものになりませんね。
 
 
【司会者】:中国の不動産業の暴利はどこから来るのでしょうか。
 
【何清漣】私はかつて「不動産業の暴利はどこから来るのか」という文章の中で、5つの出所に触れましたが、一番は土地の権利です。
 
中国の土地制度は非常に特殊です。古代ローマでは財産権を所有権や使用権などに分けましたが、中国では共産党が政権を握ると、土地をすべて国有にしました。1978年に家庭請負(うけおい)制にしましたが、これは使用権をあたえただけで、土地の所有権や売買権などは、政府が握っています。
 
ですから国が不動産業者に土地を割り当てるのですが、その過程は極めて不透明です。例えば、土地の価格が非公開の場合、割り当てる土地の価格は政府の担当者が決めます。政府の担当者は、絶大な権利を持つことになります。このような制度のため、農村の土地売買や都市の強制立ち退きに地方政府が関与する口実が生まれました。
 
土地の使用権は、1998年以前は50年でしたが、短すぎるとの意見があり、70年になりました。つまり中国での土地売買は、所有権の売買ではなく、使用権だけなのです。この土地制度は世界でも非常にまれです。
 
暴利が生まれる第2の要素は、農民の土地を奪うことです。不動産業者がもし、ある農地を気に入ったとしても、農民とは直接交渉しません。権力の弱い農民と話しても、らちがあきませんから。
 
そこで不動産業者は、土地を管轄する政府の官僚に相談しに行きます。すると相談を受けた官僚は、政府の名義で農民の土地を収用します。実は、この過程で、村の役人も一儲(ひともう)けすることができます。なぜなら、中国特有の制度があるからです。
 
村の役人は「私も同じ村の住民だから、みんなの損になるようなことはさせない」「信じてくれれば政府に話をつけてくるから」などと言って、さまざまな手を使って村人を説得します。しかし実際の所、村人の味方どころか、地方政府の官僚とぐるになっているのです。
 
北京市の六泉(ろくせん)村では、政府は農地を1平方当たり117元、約1500円で買い取って6750元、約84000円で転売しました。
 
政府は、二束三文(にそくさんもん)で土地を奪ったので、村人は納得しません。だから、土地の転売だけで財を成す村長がたくさんいます。
 
広東省などの沿岸部に家を買った村の役人さえいます。村人からは恨まれているので、家族と都市に引っ越してしまいます。
 
暴利を生む第3の要素は都市部の強制立ち退きです。
 
パリに住む中国人の華新民(かしんみん)さんは北京の四合院(しごういん)の立ち退きがきっかけで、この問題に関心を持ち始めました。
 
華(か)さんとは電話で、強制立ち退きについて語り合いました。深センの高層ビルの開発と腐敗は、切っても切り離せないと私は彼女に伝えました。
 
すると華(か)さんは、北京の高層ビルはもっと悲惨だと応(こた)えました。「どのビルも、庶民の白骨の上に建てられた」と…。立ち退きで、多くの人が犠牲になったのです。
 
改革開放から32年、これはまさに中国政府が信仰を失い、道徳観を失う過程でした。今はならず者そのものです。
 
 
政府が土地を収用する際ですが、多くの場合は補償金が少ないので、住民は動こうとしません。先祖代々の土地、あるいは商売をしている土地だから、納得の行く補償がなければ立ち退きません。すると、政府の本性(ほんしょう)があらわになります。
 
政府は不動産業者をそそのかして、マフィアや前科のある者を使うよう仕向けます。
 
 
最も現代的な都市、上海を例に挙げましょう。最初は水や電気を止めます。それから、留守の隙を狙って家財道具を勝手に運び出します。朝出勤して、夜帰ると家中が空っぽになっていた、という人もいました。
 
ひどい場合には、金で買収したやくざに石を投げさせたり、ベッドを大便などの汚物で汚させたりすることさえあります。
 
立ち退きの被害者は社会の弱者だとは限りません。なかには、元裁判長や大学の教授といった人もいます。
 
上海のある地区は5千戸が立ち退かされました。ほとんどの家庭は泣き寝入りして、立ち退きました。そのうち500戸(こ)の住民は残って訴訟を起こしましたが、裁判を引き受けようとする弁護士が見つかりませんでした。
 
そんな中、鄭恩寵(てい おんちょう)弁護士が見かねて、弁護を引き受けました。結果、上海市政府から「国家機密漏洩(ろうえい)罪」の罪を着せられ、数年間も服役させられました。すでに釈放されましたが、いまだ自由がありません。
 
暴利を生む第4の要素は、不動産業者の脱税です。
 
2004年に大手の不動産業者、88社を調べたところ、1社を除き87社に深刻な脱税行為が見られました。不動産業者に脱税が蔓延しています。
 
暴利を生む第5の要素は住宅購入者からの搾取(さくしゅ)です。「住宅の奴隷」という言葉すら生まれました。
 
 
大体はローンで家を買いますが、これによって家の奴隷になってしまうわけです。夫婦で一生懸命働いても、収入のほとんどは住宅ローンに消えます。上がる一方の家賃を見て不安になり、家を買う決意をするものの、購入後はローンの返済に追われることになります。
 
 
中国のある住宅情報検索サイトの掲示板(BBS)では、9割以上の書き込みが、ローン返済の苦しみを嘆く内容のものです。
 
それでも、共働きの家庭はまだましです。何よりも大変なのが、夫婦の片方が失業してしまった場合です。ローンの支払いが一旦(いったん)できなくなると、銀行は容赦なく家を没収します。ですから、プレッシャーは相当なものがあるのです。
 
つまり、さきほど取り上げた5つに要素によって、不動産業者は莫大な利益を得ています。
 
【司会者】先生の著作「中国現代化の落とし穴」でも「土地の囲いこみ運動」に触れていますが、これは何ですか。
 
 【何清漣】「土地の囲い込み運動」――この言葉を中国で最初に使ったのは私です。1992年、私は香港中文大学(ほんこんちゅうぶんだいがく)の雑誌に「90年代の囲い込み運動」と題した文章を発表しました。後にこれを補足したのが「現代化の落とし穴」の第2章の内容です。
 
当時私は暨南大学(きなんだいがく)で教えていましたが、ある教授に「なぜ、中国の都市土地制度が『囲い込み運動』なのか。それはイギリスの資産階級が土地を奪うために行った運動だ。我々の社会主義と資本主義を比べるとは?!」と批判されました。
 
それに対し、私は「中国の『囲い込み』はイギリスより容赦ないですよ」と応えましたが、その教授は頑(がん)として聞き入れません。後に、この本が出版されると「囲い込み」は広く引用され、「水の囲い込み」や「金(かね)の囲い込み」などの言葉も生まれました。
 
改革開放以来、中国では大規模な「囲い込み」が2度ありました。1度目は1990年から93年までの朱容基首相の主導による政策で、2度目は90年代後半からの不動産開発です。今でも行われています。
 
でも、囲い込みの対象は違っていました。1度目の囲い込みでは、荒地(あれち)や郊外に住む農民が対象でしたが、補償は割合よかったのです。少なくとも、深セン市に住んでいた農民は、土地によってひともうけしたそうです。
 
でも2度目は違いました。都市部では街の再開発により、多くの人が立ち退かされ、農村では、農民が土地を奪われました。1996年から2006年の10年間で、農民は1.2億ムー、つまり約8千万ヘクタール(1ムー=0.667ヘクタール)の農地を奪われました。 
 
私の調べでは、農村では2002年までに6千万人の農民が農地を奪われました。今は恐らく、8千万人が農地を失ったでしょう。
 
では、都市部はどうでしょうか。中国政府の統計データはありませんが、スイスのある国際組織が統計を出しました。その結果、中国には2005年「庶民の住まいの権利剥奪」という屈辱的な賞が与えられました。その統計によると、中国ではここ数年で800万もの人が住まいを失ったとあります。
 
【司会者】「フォーブス」が発表した2003年版の中国の長者番付によると、35位までが不動産業者ですが、彼らが不動産に投じた資金は自分のお金でしょうか。
 
 
【何清漣】不動産業者は、銀行の融資に頼っています。多くの業者は、実はお金を持っていません。鳥を借りてタマゴを生ませているのです。
 
「囲い込み」の流れですが、まずは計画を立てます。それから国土局の官僚に許可をもらいに行きます。
 
 こうしておくと、不動産業者は60万元の土地を20万元という破格の安値で手に入れられます。許可をくれた官僚には賄賂(わいろ)として10万元を渡します。
 
業者は安値で土地を手に入れると、それを担保に銀行からお金を借ります。工事が進むと、今度は建物を担保にまたお金を借ります。つまり、借金と担保を繰り返して儲(もう)けるのです。これには、銀行の融資を担当する官僚との癒着も必要です。
 
中国政府がかつて不動産の融資を調べたところ、約25%が違法融資だったといいます。これらの違法融資はその後、銀行の不良債権となってしまい、回収できなくなりました。近年の銀行の不良債権のほとんどが不動産融資によるものなのです。
 
ある統計によると、不動産への貸出残高は1998年には2,600億元、2002年には6,600億元になったそうです。
 
 
中国人民銀行――つまり中国の中央銀行が広東(かんとん)省や海南(かいなん)省、江蘇(こうそ)省で行った調査によると、これらの地方で行われた融資の8割が最終的に、不動産業者の手に渡っていたそうです。銀行からの融資がなければ不動産開発はできないのです。 
 
 【司会者】中国政府もずっと不動産市場を整理すると声高に叫んでいますが、実際の効果はどうなのでしょうか。
 
【何清漣】不動産ブームの熱を下げるために、確かに中央政府は色々な措置を取っていますが、地方政府は中央政府の措置に従いません。
 
 
例えば先日、江蘇(こうそ)省のある小さな町の役人が公の場で、「不動産業によって、自分たちの町は大いに経済発展をした」と胸を張りました。4年間で不動産価格が3倍上がりましたが、これは政府の功績だというのです。
 
中国の土地の売買市場は、世界の市場とは違って極めて特殊です。土地の売り買いには普通、二役しか出てきません。売り手、そして買い手です。
 
 
でも中国の場合おかしなことに、売り手と買い手以外に…えっと、売り手とは土地の所有者で、買い手とは開発業者ですが、このほか 地方政府が絡(から)んできます。
 
地方政府が絡んでくるのには2つの原因があります。1つが地方政府の利益。実は近年、地方政府の財政が悪化しています。そこで不動産と土地売買による収益は、地方政府の主な柱となりました。それぞれ平均で45%と60%を占めています。
 
上海と北京では、土地売買の収入と不動産の税収が地方財政の6割以上を占めています。西安などでは若干(じゃっかん)低いですが、それでも4割以上を占めます。
 
つまり政府は、土地ころがしで利益を得るために、庶民の土地を奪っているといえます。ほとんど略奪同然です。
 
当局によれば、官僚の汚職の95%以上は土地売買にからむ不正と関係しています。
 
ここから分かるように、政府は公的にも私的にも土地売買に関与して、土地市場の利益に介入しています。だから中国の庶民は政府と不動産業者の結託を前に、何の抵抗もできないのです。
 
そのため多くの地方で、農民が村の役人の汚職を訴えようとしてもできません。たかが村の役人なのになぜそんなに偉いのか、農民はなぜ訴えすらできないのかと思うでしょうが、実は村の役人が偉いのではなく、中国の官僚の世界の特殊なもたれ合いが存在しているからなのです。つまり彼らの間には、すでに極めて複雑な利害関係があるのです。
 
 
例えば、村の役人を捕まえれば、共犯だった官僚が割り出されます。でも、その官僚の上にもまた官僚がおり、利害関係者は膨大な数に上ります。官僚は自分を守るためにも、その村長をかばいます。村人が村の役人を訴えることすら難しいのは、これが原因なのです。
 
【司会者】このようなゆがんだ不動産業界が社会に与える影響とは何でしょうか。
 
【何清漣】それはきっと……貧富の格差の拡大に拍車をかけるでしょう。金持ちにとっては、住まいはすでに必需品ではなくなっています。実際、何軒も所有し、別荘に住む人も少なくありません。
 
一方、貧しい人は、最低限の住まいを手に入れる保障すらありません。実際、多くの都市部では、貧乏人が集まっている地域はスラム街に化しています。これらの地域には投資する人もいなければ、修繕費用もないので、環境はますます悪化します。
 
でも、金持ちの住む地域にはプールやゴルフ場すら見られます。中国の不動産業者は「豪邸を立てて、貧民区と金持ち区に分ける」と言い放ちました。
 
一方のアメリカですが、ニュージャージー州には2DKのアパートもあれば、豪邸もあります。でも、ニュージャージー州の法律の規定では、高級住宅を建てる場合、周辺に一定の割合で貧しい人用の住宅も建てなくてはなりません。アメリカの教育予算は主に不動産の税収から来ていますが、貧富の割合のバランスを合理的に保とうという考えがあります。貧民と金持ちを分けはしません。
 
 
ニュージャージー州の政策は非常に合理的だと思います。少なくとも貧しい人を排除していませんから。中国では、貧しい人と金持ちが公然と分けられているうえ、メディアすら公(おおやけ)に宣伝しています。これはまともな現象ではありません。
 
このほか、庶民の権力者に対する恨みが強まっています。3つの山の一つである住まいで人々は苦しんでいますが、住まいは買わないわけに行きません。しかも中国の賃貸(ちんたい)市場は法律の整備も不十分なので、家賃も高くなっています。その結果、人々は怒りを政府に向けるわけです。
 
それも無理ありません。政府は確かに不動産市場と土地の開発で非常に悪いことをしていますから。売り手と買い手の二役(ふたやく)を演じることで、官僚は私腹を肥やして、地方政府は収入を増やす。政府は、実際のところ略奪者で、管理者でなないのです。
 
近年の集団抗議事件は、2003年には58000件、2004年には74000件、2005年には80000件と激増しています。
 
しかも9割以上が土地に関する事件です。ですから、土地関係のトラブルは、すでに社会の動乱を起こすきっかけとなっています。
 
例えば、2005年広東省の汕尾市(さんび-し)ではおぞましい事件が起こりました。政府は装甲車や武装警官を動員して、丸腰の農民を武力で弾圧したんです。
 
農民の反抗が激しいものになるのも、これで納得でしょう。確かに不動産開発は、中国に急速な経済発展をもたらしましたが、それと同時に社会へ大きなひずみ、ゆがみを生んだのです。
 
【司会者】このような不動産市場と土地取引を前に、庶民は一体どう自衛すべきなのでしょうか。
 
 【何清漣】中国の庶民には、自分の権利を守る術(すべ)がありません。ある方を例に挙げます。白振侠(はくしんきょう)という北京市民は立ち退きに抗議して、国連で半月もハンガーストライキをしました。
 
彼の自宅は数百万元の値打ちがあったのに立ち退きの補償金はわずか20万元。立ち退きに反対する人は、よくマフィアに連行されるので、彼は地面に杭(くい)を打ち、そこに自分を鎖(くさり)で縛りつけました。
 
それでも最終的にはブルドーザーで壊されてしまいました。そこで彼は家財を売り払い、アメリカへのビザを手に入れると、国連に抗議に行きました。国連に訴えれば、何とかなると思ったのです。
 
 
多くの中国人は、国連に訴えれば中国政府を何とかしてくれるだろうと思い込んでいます。それで彼も、半月間ハンガーストライキをしましたが、最終的にはうやむやになりました。
 
 
このようなことは日常茶飯事です。中国政府が庶民の抵抗手段と権利すら奪ったので、追い詰められた人は焼身自殺など、過激な方法を取るしかなくなります。
 
 
2003年から、中国では各地で焼身自殺が起こっています。例えば、南京の翁彪(おうびょう)という青年は、野蛮な立ち退きに絶望して自分にガソリンをかけ、焼身自殺をしました。確かあの時は…8人が焼身自殺したそうです。
 
ひとりが犠牲になれば残った家族は補償金をもらえるからいい、そう思う人がたくさんいました。後に政府は事件を鎮めるため、補償金を少し出しましたが、家族の悲しみは決して癒されることはありません。命が失われたのですから。
 
このことからも、中国の庶民にはどれほど自分を守る手段がないか、生存の権利すらないことが、よく分かるでしょう。
 
中国政府は「中国では生存権がすなわち人権だ」と言っています。でも現在の問題は、彼らは生存権まで奪われたことです。たとえ少しでも希望があるのなら、焼身自殺という抵抗の道は選ばないはずです。
 
その後、中国政府は非常に野蛮で非人道的な法律を定めました。このたぐいの事件を「社会の治安を壊した罪」に定めたのです。焼身自殺した人は医療処置を受けた後、刑務所に入れられます。これは何という政府でしょうか。
 
【司会者】では、中国の庶民はどうすれば……
 
【何清漣】実は、立ち上がって抗議した人が現れてきました。このまま死にたくないと…これが近年、中国で権利を守る運動が台頭し始めてきた原因です。
 
民主化や自由はまだ高嶺(たかね)の花でも、生存権は求めずにいられません。
 
 
何もかも奪われ、生存権まで危うくなってやっと反抗し始める。これが中国人です。政府に追い詰められて、抵抗せざるを得なくなっているのです。近年の農民の抗議はすべて、政府に追い詰められた結果です。
 
実は集団抗議事件の9割が土地の収用と強制立ち退きに関係しています。今、中国は怒りの声であふれかえっています。ただし、このような状況はそれほど長くは続かないと私は思います。
 
【司会者】住まいと仕事の確保は、社会の安定と人々の暮らしを推し量る基準といえます。今日(こんにち)、中国・共産党政府は「調和の取れた社会」と高らかに叫んでいますが、住まいの問題は「調和」を壊す一番のカギになっています。
 
2006年4月26日、深圳の市民、鄒濤(すうとう)さんはネットで次のような公開状を発表しました。「価格が下がらなければ、家は決して買わない」。
 
これは広い支持を集め、新聞やネットの調査によると、71%の人がこの呼びかけに賛同したそうです。
 
これに対し、中国共産党の宣伝部は関連報道を禁じました。国営テレビの鄒さんへの取材がキャンセルされ、鄒さんのブログも閉鎖されました。香港の新聞「明報(みんぽう)」の取材を受けた鄒さんは「合法的な権利を守ろうとしただけなのに、それすら、まさか弾圧を受けるとは」と驚きと恐怖を漏らしました。
 
今の中国人は、政権に対して高望みをすることはないでしょう。しかし、最低限の生きる権利――生存権すら守られずに脅(おびや)かされるようになれば、彼らはもう何も恐れるものがなくなって、何もかも投げ捨てて政府への抵抗を試みるはずです。
 
視聴者の皆様、今回の番組で中国人の生活の実態がお分かりになったと思います。メディアや専門家が言っている「平和で栄えた社会」の裏に秘めた悲劇とその悲劇を招いた原因が見えてきたはずです。本日の「透視中国」はここまでです。次回は、教育問題について何清漣(かせいれん)さんにうかがいます。鋭く分かりやすい解説をどうぞ、お楽しみに。

 

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