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【悠遊字在】縁の話

2014年11月25日

【冒頭の詩】

運命の二人は赤い糸で結ばれ

万世の願いが縁を結び

縁が尽きると関わりはなくなり

再会の願いは果たし難し

縁に従い 縁を大切にすれば

出会いも別れも心残りはない

善き心が良縁を結び

来世もどこかで巡り合える

 

「先生は授業で、ローマの景勝地を紹介し、トレビの泉の伝説にも触れました。知ってるかな?伝説によると、泉を背に左後方からコインを投げ入れると、願いが叶うそうよ。だから 泉は常に観光客であふれ、多くの人が縁結びを願うの」

 

「先生、その願いは本当に叶いますか?」

 

「どうかしら。でも中国には言い伝えがあるわ。人には魂と来世が宿る。今世における願いや行いが来世に影響を及ぼす。この来世に影響を与える要素が縁よ。この縁は夫婦の縁の他に良縁や悪縁があるの。それでは、夫婦の縁にまつわるお話をしましょう」

 

「やったあ、またお話が聞けるぞ」

 

「唐の時代に韋固(いご)という少年がいた。ある日、日が沈んでから韋固は家路に着いた。月光の下、寺の傍らで本を読む老人を目にした。足元には赤い糸を詰めた袋がある。韋固は近寄り、本を見ると言った。『おじいさん、何の本を読んでいるの?何も書かれていないよ』」

 

「ハハハ。この本の内容は普通の人には分からんよ。これはこの世の男女の縁結びに関する書じゃよ。『婚姻簿』というのじゃ」

 

「じゃあ、袋に入った赤い糸は何に使うの?」

 

「これは夫婦を結ぶための糸じゃよ。どんなに離れていても、赤い糸が二人の足を結んでいれば出会い、めでたく夫婦となるじゃろう」

 

「仙人に出会えたとわかり 、韋固は老人にあれこれ しつこく尋ねた。老人はついに折れ、韋固に未来の妻を見せる約束をした」

 

「翌朝、二人は市場で落ち合った。見ると、野菜売りの盲目の老婆が小汚い少女を連れている」

 

「あの少女が15年後に君の妻になるのじゃよ」

 

「あんな醜い子が妻なんて、絶対にイヤだ」

 

「韋固が振り向くと、老人の姿はなかった。怒った韋固はパチンコで少女を狙い打った。少女はわあと泣き出し、額から血が流れた。老婆は少女を抱くと、韋固に怒鳴った。韋子はハッとし、慌てて逃げたのだった」

 

「15年後、韋固は大人になり、県知事のめいを妻に迎えた。妻はとても美しい。しかし、額には常に飾りをつけ、外さないのだ。韋固は不思議に思っていた。ある日、妻が洗顔する隙を狙って、のぞき見した。なんと、額には小さな傷跡があった」

 

「額の傷はどうしたんだい?」

 

「15年前のある日のこと。乳母と出かけた市場で、乱暴な少年にパチンコで打たれたのです。そのときの傷が今も残っています」

 

「韋固は驚いた。なんと妻はあのときの少女だったのか。韋固は事のあらましを妻に語った。韋固はやっと夫婦を結ぶ老人の力が本物だと信じた。二人は一層夫婦間の縁を惜しみ、仲むつまじく暮らした」

 

「わあ、とてもロマンチックね。先生、西洋でも神様が結婚を決めますか?」

 

「ギリシャ神話では、ゼウスの妻のヘラが婚姻をつかさどる女神よ。夫婦の縁は神の定め という概念は実際 世界中の伝説に見られるわ。今から筆じいさんが字の由来を説明するわね」

 

「『縁』という字は、糸と彖が組み合わさって成り立つ、左側の糸は2本の糸を交互に編んだ縄じゃ。甲骨文字は縄の両端に結び目がある。金文になると、縄の間に輪が1つ増える。右側の彖は鼻の突き出た猪を表す。甲骨文字を見ると、猪の鼻が上へ反り、意志の強さを意味する。背中の2つの点は走る様子を表し、金文になると、片方が反対側に移動した。小篆になり、糸と彖が合体して縁の字ができた。丈夫な縄を結びつけて、元気な猪の動きを封じる様子だ。楷書の縁は線の丸みが消えた。また一般的に縄を持つときは、一番端の結び目を握るものだ。だからへりや始めという意味もある」

 

「どうして縁は、夫婦の縁も意味するの?」

 

「昔の人いわく、人の体も透明な糸で括られている。夫婦の間には月下老人が結んだ赤い糸があるように、家族、友達、同僚もさまざまな縄で結ばれている。お互いに関わり合う中で、前世で未達成の願いを遂げる。そこで 人の出会いを導くこの縄を縁と呼ぶのじゃ」

 

「確か中国古典小説の『紅楼夢』に夫婦の縁にまつわる面白い話があるわ。天上界の赤瑕(せっか)宮に暮らす神瑛侍者(しんえいじしゃ)という少年がいた。霊河の岸辺で美しい絳珠草(こうじゅそう)を見つけると、毎日甘露をかけて大切に世話をした。後に絳珠草は天地の精華を受け、草木の姿を脱し、女人になれた。心には常に神瑛侍者への恩があった。侍者が転生することを知ると、自分も願を立てた。彼と共に下界へ下り、一生の涙でお返ししよう。二人は転生した。絳珠草が転生した林黛玉は、侍者が転生した賈宝玉に会う度、涙があふれた」

 

「わあ。今世の恩を来世で返すなら、悪いことも来世で報いがあるの?」

 

「他人に悪さをしていると悪縁が生じ、己に返ってくるのじゃ。今世でなければ来世で返ってくるぞ。だから、こんなことわざがある。善には善、悪には悪の報いあり。報いあらざれば、時機にあらず。分かったかな?」

 

「今後ケンカを控えれば、悪縁は生じないね。もしケンカすれば、永遠に報いの応酬が続くもの」

 

「筆じいさん、お互いに縁がないとどうなるのかしら?」

 

「街で見知らぬ人と擦れ違うように、記憶にさえ残らないのじゃ。一緒に居る人でも、縁が尽きると離れて行ってしまう。だから、こんな言葉がある。百年修行して同じ船に乗ることができ、千年修行して枕を共にすることができる。みんな 出会いを導くこの縁を大切にし、お互いを思いやるのじゃぞ」

 

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【漢字について】

1、甲骨(こうこつ)文字:

四千年近い歴史を持つ漢字の中で、最古のものとして残っているのが甲骨文字。殷の時代、国にとって重要なことがあると、亀の甲羅や牛の骨を焼いて占った。そのひび割れで出た占いの結果は、刻して記録された。この際使われたのが、甲骨文字だ。

 

2、金文(きんぶん)文字:

甲骨文字の後、つまり殷・周から秦・漢の時代まで使われた文字。青銅器に刻されたり、鋳込まれたりした。ここでの金は、青銅器を指す。当時は、官職に任命されたり、戦功を上げたりすると、それを青銅器に記録したという。

 

3、小篆(しょうてん)文字:

金文の後に誕生したのが篆書(てんしょ)。これは小篆と大篆に分かれる。秦の始皇帝は、まちまちだった文字を統一し、標準書体を定めた。これが小篆である。

 

4、楷書(かいしょ):

南北朝から隋唐の時代にかけて標準となった書体。漢の時代まで使われた隷書から発展したもの。

 

 (翻訳/深澤 映像編集/李)

 

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