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カルテ(二十一)―牛の糞で「しらくも」を撃退

2010年04月06日

抗菌ブラシに抗菌カップ、それから抗菌ペン……。今、我々の身の回りには抗菌商品があふれている。日本人の清潔志向を表しているのだろう。これが悪いとは言わない。だが、その結果我々が望むように感染症や食中毒が減ったのか。実際は減るどころか、逆にアレルギー・喘息・アトピーなどの病気が増えている。

今回のカルテで紹介した症例も示唆に富んでいる。昔、ある子供が白癬(はくせん)、俗に言う「しらくも」にかかった。これを診た傅山(ふざん)こと傅青主(ふせいしゅ)は何と、痩せて病気持ちの牛の糞をこの子の頭に塗る。このまま放置しておくこと数日。牛糞が乾ききっていた時、その子の白癬は治っていたという。
 
西洋医学の抗生物質や殺菌剤・除菌剤に慣れ親しんだ現代人の感覚からすると、これは全く信じがたい行為だ。だが、牛糞だと見くびることなかれ。この牛糞には「牛黄(ごおう)」が含まれている。この牛黄は牛の胆嚢や胆石を乾燥させた物で、希少価値が高く、重量に換算すると金の価格の5倍もする。何よりも命を養う薬として尊ばれている。傅山は、熱を持った患部には強い涼性の牛黄が良い、と考えたのだった。
 
「漢方は科学的でない」とよく言われる。その根拠として挙げられるのが、客観的なデータの不足である。だが漢方治療は、その人の心と体、さらには周りの環境をも考慮に入れて行う。すなわちオーダーメイドだ。よって、全く同じ条件をそろえて実験を行うことは極めて困難である。だからと言って、「漢方は非科学だ」と切り捨てるのはあまりにも惜しい。
 
実際のところ、両者はとらえ方が違うのである。漢方は人の心身そして周りの環境を考慮して、完成された一つの体系を作り上げた。そこからは、生命に対する鋭くて深い洞察力が浮かび上がる。先入観を捨てて、新たな目で漢方を見つめ直せば、その不思議かつ奥深い世界に脱帽することだろう。

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