HOME > ニュースページ > 漢方の世界 > 詳細

カルテ(二十五)―現在の神経学に劣らない漢方

2010年04月16日

時はさかのぼること60余年、これは1912年の出来事である。

一人の男性が、ある日突如、脳卒中で倒れた。この時彼はすでに脈がなかったが、現場に駆けつけた漢方医は彼に鍼を打つ。すると、徐々に脈が戻り意識も回復した。さらに立ち上がり歩けるようになった姿を見て、漢方医は他のツボへも鍼を打った。この結果、顔面神経麻痺が消えた。このように、一週間ほど治療を受けた彼は、すっかり健康を取り戻したのだった。
 
この漢方医は、ある原則に基づいて鍼灸治療を行った。つまり、「緊急の際には急性を治し、回復して来たら慢性を治す」。したがって、発作直後には「百会(ひゃくえ)穴」「肩井(けんせい)穴」「湧泉(ゆうせん)穴」「三里(さんり)穴」など、脈を復活させるツボに鍼を打った。彼の状態が落ち着いてくると、他の合併症を治療するためのツボ(この場合は「地倉(ちそう)穴」「睛明(せいめい)穴」など)に鍼をしたのである。
 
鍼灸は一般に、慢性病を緩和させる療法と見られている。だから、急性にも用いられる、というのは衝撃だ。しかし、鍼灸はもちろんこれだけにとどまらない。
 
巨刺(こし)、経刺(けいし)、 繆刺 (びゅうし)という言葉をお聞きになったことがあるだろうか。普段は聞きなれない言葉だが、鍼灸にとっては重要な概念だ。
 
これは治療の際、症状が出ている部位の反対側に鍼灸を施すことである。もし左の上側に症状が出ているなら、右の下側に対して鍼灸をする。実はこの考えは、現在の神経学と全く一致するのだ。驚くべきことは、これが何千年も前にすでに発見されていた点である。
 
レントゲンもCTもなかった古代。目に見えない経絡を発見し、複雑かつ有効な治療法まで築き上げた。あまたの実践に加えて、古人の知恵や苦労も加わりつむぎ上げられた漢方。今回の話は、スケールの大きい漢方の世界のわずか一部に過ぎない。これからも、もっと多くの素晴らしい話をご紹介。お楽しみに。
 
 
 
 
 

トップページへ