今回のカルテの主人公は、頭痛に悩む一人の男性だ。この頭痛を招いたのはほかでもない、睡眠不足である。彼の妻は、日中多忙を極めるので、夜中に家事にいそしむ。そのせわしなさに彼もぐっすり眠れない。
皆様もご経験があるように、良く眠れないと翌日体調が優れない。だからこそ、十分で質の良い睡眠を誰もが望むのだ。では、この良質な睡眠とは?
もちろん睡眠時間の確保は大切だ。このほか、一定の時間に眠ることも肝心である。
つまり、昼間は活動し夜は眠ることである。これを西洋医学ではバイオリズムの観点から解釈する。一方の漢方が着目するのは、ずばり人体における気の運行だ。
実は、体内の気は十二の経絡を、十二刻に従ってめぐっている。例えば、子(ね)の刻に胆経へ入った後、丑(うし)の刻には肝経に入り、寅(とら)の刻には肺経に入る。卯(う)の刻には大腸経に、辰(たつ)の刻には胃経に入る。さらにこのようにして、脾経、心経、小腸経、膀胱経、腎経、心包経、三焦経とめぐっていくのである。
この中で特にポイントとなるのが、気が胆経と肝経をめぐる時間だ。これは、子の刻と丑の刻、それぞれ夜の11時から1時までと、1時から3時までを指す。つまり、夜の11時から3時までは寝ることがベストなのである。
というのも、漢方では肝は魂をつかさどると見る。この肝と対になるのが胆である。つまり、体のほかに心や精神も休ませるには、肝と胆を休息させなければならない。よって、11時から3時までは眠るのが良いのである。
また、よく知られているように睡眠不足だと免疫力が低下し、様々な病気にかかりやすくなってしまう。一方漢方では、「眠れないとのぼせる」と見るが、これを「火気」と呼ぶ。この火気は、五臓のどこにでも現れて厄介な症状を招いてしまう。例えば、「胃火」の場合は口元ののぼせをまねき、口内炎などが出やすくなる。「心火」の場合は舌ののぼせ、「肝火」の場合は目ののぼせであり、目やにが出ることが多い。
これらの火気に対処するには、とにかくよく寝ることだ。しかし、不眠に悩まされる方も少なくない。ならば、どうするべきか。
胡先生がご紹介するのは、不眠を和らげるツボである。まず手首の内側にある「神門穴(しんもんけつ)」、足の内くるぶしから指四本分上がったところにある「三陰交(さんいんこう)」。このほかに、髪の生え際や耳元にある「神門穴」など。これらに対し、鍼灸やマッサージをするのだ。
さらに、不眠に対する漢方処方としては、半夏秫米湯(半夏とコーリャン)、酸棗仁湯(さんそうにんとう)、天王補心丹(てんのうほしんたん)等もある。
もちろん、漢方にせよ西洋医学にせよ、これらの力に頼らないのが理想である。眠れないようなストレスをためず、穏やかな心を常に保つこと。この点を心がけたいものだ。