2010年、バンクーバーで行われた冬季オリンピック。数々のアスリートが繰り広げた熱戦にいまだ記憶に新しい。それをついで行われるのがパラリンピックだ。障碍者(しょうがいしゃ)が参加する、このスポーツの祭典は昨今関心度が増している。
パラリンピックには、病気や怪我・事故で体の一部の自由を失ったアスリートたちが参加する。例えば、急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん)、俗に言う小児麻痺、ポリオである。
急性灰白髄炎について、簡単にご説明しよう。ポリオウィルスが脊髄の灰白質(細胞体が密集する場所)で炎症を起こし、その結果その脊髄以下の支配部分が麻痺してしまう病気だ。これは残念ながら、有効な治療法はない。というのも、現代医学においてウィルスを撃退する治療薬や治療法は、まだ開発されていないからだ。ただ、予防接種で感染を防ぐのみである。
だが、漢方には興味深い話がある。胡先生が今回の番組で取り上げてくれたのは水頭症だ。
胡先生はかつて、この水頭症の患者を治療しようと漢方の古書をひも解いた。古書の記載によると、漢方では泉門(せんもん)が閉じずに頭蓋骨の縫合が不完全である状態を「解顱(かいろ)」と呼ぶ。これは、腎気の不足によるものだそうだ。そこで「補腎丸(ほじんがん)」を処方する。
胡先生は実際、この補腎丸(ほじんがん)を水頭症患者に処方した。すると、ある程度の改善が見られたという。ただ最後まで治療を続けられなかったので、その子の行く末は存じないそうだが。
現在、西洋医学こそが最も進み、頼りになる医療だという考えが一般的だ。だがこの漢方は、我々現代人が想像しているよりもずっと奥深く、また博大である。今回の症例はその典型的な例であろう。
『漢方の世界』では、これからも様々な漢方の不思議と醍醐味に迫る。お楽しみに。