「列車がトンネルを通る」。これは中国の言葉で、鼻を何度もすするために鼻水が出たり入ったりする様子を表したものだ。そういえば日本にも「青っ洟(ぱな)を垂らす」などで、鼻水をいつも垂らしている子供を表現していた。だが最近の子供は清潔だから、そんな光景は全くといっていいほど見られなくなった。では、もう今の子供は鼻水で悩むことはなくなったのか。いや、それどころか昔よりも悩みは深刻になっているようだ。
代表的なものでいえばアレルギー。「清潔」な環境で生活しているはずだが、逆にそれがあだになったのか、様々な異物に過敏反応してしまう。しかもそれを起こす原因は増え続ける一方だ。花粉に香料など、挙げればきりがない。これに対し西洋医学では、アレルギーを軽減したり、原因物質を除いたりするほか、ほとんど有効な手立てはないのが実情だ。
ひるがえって漢方だが、他の病気と同様、まず「内因・外因・不内外因」を診る。西洋医学のように細菌・ウィルスなどの病原菌を探すのではなく、その人の体と心、そしてその周りの環境も含めた全体を診察する。例えば鼻水ならば、風や寒熱など、どのような状態に属するのかを見極めてから、本来のバランスを取り戻せるような治療を施す。西洋医学のように、増え続ける病原菌やアレルギー源のひとつひとつに対処するわけではないので、漢方は比較的シンプルなのである。
絶えず新薬や新たな治療法・機器が発明される西洋医学に比べて、漢方はずっと昔のものを引きずって、たいして発展してはいないのではないか。そんな声もあるかもしれないが、胡乃文先生の言葉を借りれば、漢方の真髄を多くの現代人は知らず、理解しようともしていない。その奥深い世界には、現代人も驚くような多くの宝がまだまだたくさん埋まっているのである。