今回ご紹介するのは、もう皆様もおなじみの金元時代の名医、張子和のカルテである。主人公の患者は何と、10年以上も下痢で悩んでいたという。結果、皮膚はかさつき意識はもうろうとする、危険な状態に陥っていた。しかし患者は、張子和に対し羊のレバーを食べたいと訴える。羊のレバーのような生臭くて消化の良くない物を、深刻な下痢患者が食べてよいのだろうか。しかし張子和は、食べてもよいと許可を与えたのであった。
驚くべきことに、患者は羊のレバーを食べると3割がた下痢が回復したという。そして1ヶ月も経つとほぼ完治した。
どうやら下痢に油物や冷えたものは禁忌、というのは絶対的な鉄則ではないらしい。例えば患者に氷を与えた結果、下痢が治ったケースもある。これは、炎症のため下痢が起こったため、冷たい物により炎症を抑えられたからだ。ゆえに、白頭翁湯(はくとうおうとう)といった寒涼性の薬も使われるのである。
もっと面白い例を取り上げよう。緩下薬、つまり便をゆるくする生薬、ダイオウ(大黄)を下痢に用いる。これは、細菌やウィルスなどが下痢を招いた場合、早くそれを外に追い出すために処方したのである。
病気の性質をしっかり見極めること、そして正しい知識を持つこと。そのような当たり前のことが出来ていないと、たかが下痢でもひいては命取りになる。こんな基本的なことが医者にとって、いかに大切かを教えてくれるカルテである。