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カルテ(五)―笑いの呪縛を解いた赤ん坊

2010年03月01日

今回のカルテの主人公は、60数歳になる男性。彼は、わずか二歳半のときに奇病を患う。医者は病名も分からぬまま、彼に三時間おきに注射をした。しかも不幸なことに、この時彼のそばには寄り添う両親もいなかった。こんな孤独で苦しい治療が二十一日間も続いた後、彼は突如、激しい笑いが止まらなくなった。この激しい笑いは60数歳になる今日まで続いていた。そんなある日、彼に転機が訪れることになる。 

その日診察を受けに行った彼は、待合室で赤子を連れた若い母親に出会う。診察室に入ろうとした母親は、見ず知らずの彼にわが子の世話を託した。母親から寄せられた信頼を喜んだ彼は、快諾した。この様子を見た医者は、彼にこんなアドバイスをする。「その赤子を、幼い頃の自分だと思いなさい」 
 
そして、彼は無心になってこの赤子を抱き続けた。この赤子を抱いていた、この一時間……彼の身にある奇跡が訪れた。彼は全く笑うことがなかったのである。数十年も彼を苦しめ続けたこの大笑いの奇病。一体何が原因で、たちまち消え去ったのであろうか? 
 
胡先生はこの問題に迫る。 

恐らくまず一つ目は、母親の寄せた信頼。これにより彼は自尊心を取り戻し、ありのままの自分を受け入れたのだろう。もう一つは、赤子の純粋さ。この純粋無垢な赤子を抱いている時、彼はこの子に幼い自分の姿を重ねたに違いない。そして、彼は感じ取ったのだ。無条件に捧げられた母親の愛を。それが彼の傷ついた心を癒してくれたのであろう。彼は本来の自分、本来の自分の心を取り戻したのである。純粋無垢な心を。

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